不覚



 どうやら――雅人のほうは、相当に機嫌が悪いみたいだけど。
 おれと、結果的に寝ちゃったことがいやなんだね、きっと。
 どうやら彼は心に決めた相手がいて、しかも想いを告げるつもりもないくせに、その相手に貞操を捧げるって誓ってるらしいから。
 
 でも、セックスなんてその程度のものでしょ?
 酒を飲み過ぎたら無性にしたくなる――そんな程度のものでしかないんだよ。
 
 雅人も、これできっと――目がさめたよね。
 
「‥‥ご機嫌斜めだね」
「大きなお世話だ。おまえとはもう寝ないと言っただろう」
 声をかけると、苛立った声が鋭くはね返ってきた。
 ‥‥ほんとに怒ってるや。
 今までの雅人なら、セックスすればそれで一気に落ち着くはずなのに。
「つれないね。雅人だって満足したじゃない」
「――言うな」
 おれを遮って、雅人は煙草を灰皿にねじこんだ。


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