takashi

 あーーーーーー。

 ベンチにでれーーーってして目つぶってると、いー気分。

 おひさまぽかぽかしてて。コート黒くてビニールだからちょっとあっついくらいだけど、そのぶん中は服着てないからね。ちょーどいいカンジ。
 俺もともと色白いんだけど、べつに、こんくらいの太陽だったら浴びてても日焼けもヤケドもしないし。ひなたぼっこにはちょーどいい。

 これで、今日おしごとあるんじゃなかったらば、さいこーなんデスけどねー。

 ‥‥‥‥あるのよねー、おシゴト。ほんとは。
 事務所で新しいCMの打ち合わせ。
 もーそろそろ、はじまるころ。

「‥‥‥‥」

 ぽっけの中さぐって、けーたい出してみたり。
 電源切っちゃってあるけど‥‥そろそろ入れたほうがいい、‥‥カナ?

 うん。そーしましょっか。
 べつにお仕事はキライなわけじゃないし。
 そろそろ行こうっかな?

 けどおひさまあったかくって気持ちいーからもーちょっとひなたぼっこ‥‥‥‥って、あ。
 あー、さっそく。
 電話だわ。
 ごくろーさまです、だよね、柊サン。
 はいはい、出ますよー。

「はぁーーい」

 電話とったら、向こうっかわからでっかいため息が聞こえた。


   *   *   *   *   *


 おせっきょーは、そんなには。てゆうか、今は、だろーけどね。
 俺のこと叱ってる時間、もったいないから。
 さっさとタクシーつかまえて事務所来い、ってだけゆわれて、はーい、ってゆって、電話切って。
 じゃあ本格的に、お仕事しに行きマショウ‥‥‥‥‥‥あれ。

 ベンチから立ち上がりかけて、俺はぱちくりした。

 こっち見てる、目。

 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥アレ?


   *   *   *   *   *


「おはよーーござーいまーす」
「あ‥‥喬志! おせーよおまえ!」
 事務所入ったら、まあ当然なんだろーけど、ミナサンお揃いでした。むっ、って唇とんがらして俺にらんだかずやと、ちょっと呆れた顔してるよーちゃんと、的場さんと坂上さんとひーらぎサン‥‥‥‥‥‥と。
「おはよう、神沢クン」
「あーー‥‥おはよーございマス」」
 しゃちょーさんもいまシタ。腕組みしてにっっっこりされちゃって、ちょこっとひきつった。
「ひなたぼっこは楽しかった?」
「はは」
 俺このおばさん、ちょっとニガテ。べつにイジワルじゃないしすごいデキるひとだし。俺らのことかわいがってくれてるの知ってるけど。みょーに物わかりイイっていうか、どーじないってゆうか。やりにくいのよねー。
「あい。気持ちヨカッタです」
「そう」
 にっこり。
「それはよかったわ。じゃあ新鮮な気分で仕事もがんばってちょうだいね」
「‥‥‥‥あい」
 スイマセン。
 ボクが悪かったデス。はい。
 しゃちょーさんにそーやってゆわれちゃうとコワイですー。
「喬志」
 こっくん、って頷くと、的場さんがちょっと笑って助けてくれた。
「もうすぐ代理店が来るから。資料だけでも見ておけ」
「あーい」
 おもしろそーにくすくす笑ってるオバサンの脇とおり抜けて、打ち合わせスペースのほう、いった。できるけどせーかく悪いよね、このヒトやっぱり。俺が怒られるほーが気がラクなの知ってて怒んないんだもん。
 ‥‥やっぱちょっとイジワルかも。
「ほら。資料だ」
 ソファに座ると、的場さんがホッチキスでとじた紙渡してきた。
「説明してる時間はないから。ざっと読んでおけ」
「ん」
 こっくん、てして、表紙の紙めくった。オバサンまだ見てるし、ちょっとイイコにしてないと。あとがおっかない気がスル。

 きゅう。

「‥‥あれ?」
 ちっちゃな声がして、かずやがきょとんてした。
「今、なんかヘンな音しなかったか?」

 きゅう。

 かずやに返事するみたくにもっぺん声がして、よーちゃんもちょっと首かしげて俺んこと見た。
「神沢‥‥。おまえの‥‥‥‥ポケット?」
「ん?」
 首ナナメにしてよーちゃん見て、俺はぽっけに手入れた。
「コレ?」
 きゅう、ってゆってた子を出して見せると、みんなの目がぽかーんてまん丸くなって、事務所はしーん、てなった。

 きゅう?

「はいはい。よしよし」
「神沢――‥‥‥‥」
 くりん、て首かしげた頭んとこ、指先で撫でてあげると、おっっきなため息といっしょに、柊さんが低ーい声出した。
「なんだ、それは」
「んあ?」
 ナンダ、って――‥‥見たらわかるデショ。
 柊さんてば、まだ若いのに、ろーがんなっちゃった?
「はむすたー」
「見ればわかる」
 ほら、てカオの横んとこに持ち上げて見せると、柊さんはもっぺん、おーーっっきなため息ついた。
「なんでそんなものがおまえのポケットから出て来るんだ」
「トモダチなったの」
「‥‥‥‥‥‥トモダチ?」
「うん」
 んね、って耳んとこつっついてやると、はむすたくんはきゅっ、て頷いた。
「さっきねー、俺公園いて。ベンチ座ってたらトナリに来たの。野良はむすたーみたい。俺んことじーって見てたから、いっしょ来る? って手出してみたらのってきてさ。だから。連れてきた」
「連れてきた、って――おまえ」
「神沢」
 よーちゃんがちっちゃなため息ついた。
「野良猫ならともかく、野良ハムスターなんて聞いたことないよ」
「でも首輪ついてないよ。つけるデショ? ふつう」
「つけねーよ、ふつうハムスターには首輪って」
 かずやまでため息ついて、ちょこっと冷たい目がこっち見た。
 ‥‥なによぉ。
 なんか、かずやに呆れたカオされるのって、ちょっとフホンイな感じ。

「でも、おとなしいんだね」
 隣から、よーちゃんがそうっとはむすたのほうに指近づけてきた。
「さわってもいい?」
「いーよ、俺は」
 ベツに俺のモノってわけじゃないし。はむくんがよーちゃんにさわられてもやじゃないんだったら。
 はい、って手出してあげると、よーちゃんがそーっとはむくんのほっぺたにさわる。
 きゅ? て首傾げて、はむくんはきょとんてよーちゃんのこと見てじっとしてた。
 ちょっとだけ、よーちゃんがうれしそーなカオになって笑った。
「うわーっ。かわいいねー!」
「あ、オレも! オレも撫でる!」
 よーちゃんになでなでしてもらってるの見て坂上さんとかずやが身乗り出してきた。

 みんなにかわいがられて、はむくん気持ちよさそー。

「神沢」
 的場さんもちょっとカオゆるめちゃってるナカ、おヒトリだけ状況を忘れてらっしゃらなかったカタが腕組みしてちろんて俺のことにらんだ。
「とりあえずハムスターは小野塚にでも渡して、おまえは資料をちゃんと読め」
「‥‥はあーい」
 ははは。オコラレちゃったー。
「よーちゃん、いい? だっこしてくれる?」
「ああ――うん、いいよ」
「んじゃ、はい」
 ゆわれたとおりよーちゃんにはむくん渡して、俺はもらった資料広げた。


   *   *   *   *   *


 オツカレサマでしたー、ってゆって代理店のひとが帰ってって。
 ブジ、打ち合わせおしまいでーす。
「神沢くん。はい」
 打ち合わせの間、はむくんと遊んでくれてた事務のミユキちゃんがちっちゃいカゴを渡してくれた。あけてみるとなんか甘い匂いがして、うすいブルーのふわふわタオルの真ん中ではむくんはまぁるくなっておねんねしてた。
「かーいいカゴね」
「この間、さし入れでもらったクッキーが入ってたの。ちょうどいいサイズだったから」
「ああ。それで甘いにおいするのね」
 指でちょんってつっついても、はむくんはすうすう寝てて動かない。ちっちゃなおなかが寝息に合わせて動いてるだけで。
 ツカレたのね、みんなにかわいがられて。
「ほんっとに、かわいいねー。すっかり安心して寝ちゃってる」
 のぞきこんできた坂上さん、にこにこしてた。
「でも――‥‥神沢?」
 よーちゃんがちょっと首傾げるみたくにして俺んこと見て、俺も首ナナメにしてよーちゃん見た。
「ナニ?」
「おまえ、そのハムスターどうするの」
 へ?
「どーする、って?」
「飼えるの」

 ‥‥‥‥‥‥。

 そっか――‥‥俺たんにトモダチなったぐらいっか考えてなかったけど。
 この子拾った、ことになるんだ。

 ‥‥そだよね、迷子だったかもしんないけど、会っちゃって、連れてきちゃったし。
 もとの公園連れて帰ったって飼い主が見つけてくれるかわかんないんだし。飢え死にしちゃったりクルマ轢かれちゃったりしたらすっごいかわいそだし。
 こんな、安心しきって寝ちゃってるのに――放り出したりできないね。

 でも。

 できるのかな――、ちゃんと、俺。

 自分のめんどーだってあんまちゃんと見れないのに。
 俺に‥‥飼われたりしたらかえってこの子かわいそーなんじゃないのかな。
 なんか急に、ちっちゃくて軽かったカゴがすっごく重く感じてきた。
 けどやっぱ‥‥セキニン、てゆうか。

「そ、だね。‥‥飼ったげないと」
「やめておけ、神沢」

 ひょい、って柊さんが俺の手からカゴとった。

「おまえに世話ができるわけないだろう。無理だ」
「あら‥‥そうかしら」
 なんとなく反論しちゃったけど――でも、ちょっとほっとしたのもほんとだった。
「そうだな」
 的場さんも納得したカオで頷く。
「喬志に任せておくほうが心配だ」
「でもさ、じゃあどーすんの? 捨てるわけいかないでしょ?」
「誰かもらい手を探すさ。それまでは――」
「あのー‥‥」
 クビ傾げたかずやと、返事してた柊さんと的場さんの間に、そーっと、って感じで坂上さんが手あげた。
「ぼく‥‥もらっちゃだめですか、その子」
「ん?」
 柊さんがちょっと意外そーに坂上さん見る。
「おまえが?」
「ええと――はい。ぼくが飼ってもよければ」
 坂上さんはちょっと照れてるみたいだった。
 でもたしかに、ちょっと意外。坂上さんのおトモダチってゆったらぱそこんとかデータ本とか、そゆのばっかりってイメージあるから。
 自分もジカクあるんでしょね、言いにくそーにしてる、ってコトわ。
「なんだか、かわいくなっちゃって。知らないひとにあげちゃうんだったら、ぼくが飼いたいなあ、って――」
 柊さんと的場さんがカオ見合わせた。それから、的場さんが俺のほう見る。
「どうする、喬志」
「え」
 俺‥‥に振るの?
「拾ってきたのはおまえだろう」
 柊さんがそーゆって、俺はなんとなく、首のあたり、こしこしっててのひらでこすった。
 うん、まあその、そーですけど。
「イヤ、べつに――。坂上さんがそんでいーんだったら俺もいいよ」
「ほんと?」
 ぱって坂上さんのカオが明るくなった。
「ありがとう、神沢くん! ぼくちゃんと世話するからね!」
「うん――」
 えーと。
 こーゆートキは、‥‥なんてゆうんでしょね。
 やっぱ、アレかな。
「ヨロシクお願いシマス」
「うん!」
 ちょっとだけ頭下げたら、坂上さん、にこっっ、て笑った。
「坂上さん、こいつ名前どーすんの?」
 はむくんの入ったカゴが柊さんから坂上さんとこにいって、かずやがカゴの中のぞきこんだ。きかれて、坂上さんがうーん、てうなる。
「なんにしようかなあ。――あ、せっかくだからさ。神沢くん、名前つけてあげてよ」
 え。俺がつけるの?
 んーー、そだなあ‥‥。
「ハム」
「‥‥‥‥ハムぅ?」
 最初に浮かんだ名前ゆったら、かずやが声ひっくりかえらした。
「なんだよそれ」
「だってはむすたーだし」
「神沢‥‥ストレートすぎない? それ」
 よーちゃんまでそんなことゆう。柊さんも的場さんも半分呆れたカオしてて、
「え、いいじゃない、ハムって名前」
 でも坂上さんはなんか気に入ったみたいだった。
「かわいいし、なんだかおいしそうだよ」
「‥‥食べちゃだめよ、クッキーのいいにおいするけど」
「えー? やだなあ、食べたりしないよ」
 坂上さんはにこにこしてたけど――ほんとかなあ。
 このヒト、食べるトキってすっごいとことん食べるしなー。
「でも、もしかしたら飼い主が探してるかもしれないね。神沢くん、あとでこの子拾った場所教えて? 写真撮って、この子預かってます、って貼り紙してみるから」
「ああ。うん」
 さすが、そのへんは抜かりナイですね。
 それだったら、しばらくはハムくんも食べられたりしないかな。

「じゃあとりあえず、しばらくは、ぼくんちの子だね、ハム」

 カゴからハムくん抱き上げて、坂上さんがほっぺたすりすりする。目さめたみたくて、ハムくん、きゅ? ってゆってまだちょっとねむそーにあたり見回した。


 うん――坂上さん、ほんとにすごい気に入ったのね、その子。
 坂上さんいーヒトだし。かわいがってくれそー。

 シアワセになってね。
 なんかちょっと嬉しい気がして、俺はちょっと笑った。


end

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